雑誌「アナログ」編集長が語る、アナログな人たちから受け取ったこと

音元出版の“中の人のストーリー集<Ongen Stories>
Vol.1:Mikiko Noma

音元出版が発行する季刊誌「 アナログ」は、アナログオーディオと人と物にまつわる物語を紹介する、国内唯一のアナログオーディオ専門誌です。同雑誌の編集長が、雑誌づくりの中で体験したこと、感じたこと、さまざまな思いを語るインタビューの模様をお届けします。

野間美紀子

Mikiko Noma
雑誌「アナログ」編集長

株式会社音元出版 メディア事業本部 オーディオ事業局 AD&ED 統括ディレクター 季刊アナログ編集長

(Profile) 1994年 株式会社音元出版 新卒入社、ソフト編集部配属 雑誌「ハイコンポのすべて」、雑誌「デジタルサウンドMD」編集を担当。2003年 ホームシアターファイル編集部配属 雑誌「季刊 ホームシアターファイル」編集を担当。2006年 オーディオ編集部配属 雑誌「オーディオアクセサリー」「アナログ」編集を担当。「別冊ハイエンドカーオーディオ」編集長、「季刊 Net Audio」編集長を経て、2020年「アナログ」編集長に就任。現在に至る。

アナログを楽しむ人、作る人の
「物語」をすくい上げていきたい

ーー雑誌「アナログ」について、あらためて紹介してくださいますか?

野間 オーディオ専門誌として、特にアナログにフォーカスしているのが雑誌「アナログ」です。オーディオの始まりはもともとアナログで、昭和の時代にアナログレコードが主流になりましたね。80年代半ばにCDが出て90年代にレコードは姿を消した感がありましたけど、最近は新譜もたくさん出るようになりました。

「アナログ」はというと、アナログレコードの人気が今のように復活していなかった2000年に、あえて刊行してみた「アナログレコード再生の本」が前身なんです。誌名ロゴを「analog」に変えて、2004年に定期刊行化しました。

コアなアナログオーディオファンの間で、ひそやかに続いてきた趣味をテーマにした本なので、20年以上経ってアナログがこんなに人気になるとは、私たちもびっくりしています。そしてこの趣味をずっと続けてこられた方々は、誇らしく思われているんじゃないでしょうか。 

「季刊 アナログ」vol.75 2022 SPRING
(2022.4.1.発売)

ーーリバイバルしているアナログオーディオ、楽しむポイントはどんなところですか?

野間 今はデジタル音源を、CDのようなパッケージを介さずに、データのまま受け取って再生できます。こういうファイル再生がスペック競争をしていた時代もありましたけど、今はストリーミングも、ファイルも、CDも、アナログレコードも、音楽ソフトを入手する時の状況に合わせて使い分けられて、共存するようになりましたよね。

アナログオーディオは一旦姿を消して、また復活したわけですが、今はオーディオの技術が進化しています。精度が上がって、ハイテク素材を使えて、そんな最新のオーディオ機器で聴くと、同じレコードでも、40年前には聴こえなかった音が聴こえる! というようなことが起こっています。ある意味でアナログは、オーディオの最先端と言えるんじゃないでしょうか。

逆に、ヴィンテージのオーディオ機器もまた、並々ならぬ魅力で迫ってくるものがあるんですよね。それらの対比も、とても面白くて。私自身、こういうことを体験できる環境にいることをラッキーだと思っています。

雑誌「アナログ」は、そういったアナログオーディオの面白さや、それらをより楽しむためのノウハウをたくさんご紹介しています。針、トーンアーム、ターンテーブル、フォノイコライザー、それにターンテーブルマットやスタビライザーなど、いろいろなアイテムがあって、それらの素材、硬さ、重さ、機械的なことと電気的なことのかけ合わせなどで、音が変わってくる面白さがあると思います。そしてまだまだ解明できていない部分もたくさんあって、だからこそ使う人、作る人、それぞれの持論や、物語があるんですよね。

ーー誌面に登場するたくさんの人が、自らの言葉で語られていますね。

野間 ユーザーの方々の中には、機器を自分で直したり作ったりする方や、それが長じてガレージメーカーを創設するような方もいます。機器の作り手の側も、アナログ全盛期からのエンジニアの方が独立されたり別の企業で活躍していたり、あるいは若くして発明家のような方が斬新な設計で製品を出してきたり。評論家の方々も、アナログオーディオが本当に好きでずっと続けてこられて、それぞれにご自身の流儀をお持ちです。

このようなマニアックな世界に、なぜ私がいるのでしょうかね(笑)? それは私自身、こうした物語に共感して感動したり、リスペクトしたり、未解明ならではの議論を面白く感じることができるからだと思っています。

皆さんに共通するのは“アナログ愛”です。「アナログ」では、アナログオーディオを愛する人たちがたくさん登場して、興味深い物語を語ってくださっています。アナログ愛に溢れた、いろいろな物語を楽しんでいただけると思います!

いつまでも惚れ惚れと眺めたくなる
繰り返し読まれる雑誌に

ーー野間さんは2020年3月に「アナログ」の編集長になられて、それまでいろいろな雑誌を担当されたんですよね。

野間 そうですね。入社して最初に「ハイコンポのすべて」という、初心者の方に向けた比較的カジュアルなオーディオ誌に携わり、裾野を広げる雑誌作りをしてきました。それから、「ホームシアターファイル」誌に携わって、それまで手の届きづらいイメージだったホームシアターの世界に、家族で楽しむ“リビングシアター”など、人の暮らしに絡めた新しいテーマを提案してきました。また比較的、音楽ソフト紹介、アーティスト記事、読みものを多く担当してきました。

そしてオーディオ編集部に配属されて、ピュアオーディオの専門誌に携わって今に至ります。最初の「ハイコンポのすべて」と「ホ―ムシアターファイル」で、読みやすく、誰にでもわかりやすい誌面づくりを、と取り組んできたので、ピュアオーディオ誌の編集でもそこは大切にしていきたいです。

ーー雑誌「アナログ」の誌面づくりで何を心がけていますか。

野間 ウェブは情報をいちはやく発信できますし、誌面のようにスペースの制限なく表現できます。だからこそ雑誌は選び抜いた内容を、また雑誌ならではの見せ方でお届けしなくてはと思っています。雑誌は手元に置いて、眺めて、何度も読み返して、豊かさを与える存在だと思うんです。だから、中身はもちろん見た目にもこだわって誌面づくりをしていきたいです。

ハイエンドの高価な製品は機器そのものも音もともに美しく、憧れられる存在ですよね。そういう世界もアナログオーディオの魅力のひとつとして雑誌でしっかりお伝えしていきたいです。巻頭特集などで、大きな見開きスペースをふんだんに使う、そして美しい大きな写真で製品の魅力を見せて、いつまでも眺めたくなる誌面を作る、というようにアートディレクションにもこだわっているんです。

また、vol.75の「フォノ・アースを見直す」という特集などは、他ではなかなか読めない内容で勝負しました。これこそ雑誌向きのコンテンツで、保存版として繰り返し読んでいただきたいです。そういうコンテンツは、経験豊富な評論家の先生方と熱心な編集担当が心をこめて作っています。

自ら面白がって企画に取り組み
雑誌を面白くしたい

ーーもしかして、野間さん自身も“オーディオマニアなのですか?

野間 少し、そういうところもあるかもしれません。アナログオーディオを楽しむ人に接するうちに、その純粋な、キラキラした目に吸い込まれて(笑)。皆さんがやっていることを知っていないといけないなと思い、ちょっとやってみるかと足を突っ込んだら、なにこれ、快感! 最高! という感じです。お休みの日には、家でオーディオ機器をいじって、セッティングを変えたり細かいものを試したりしています。ユニットを付け替えたり、マルチチャンネルにチャレンジしたりもしたんですよ。

音の帯域を分けて再生するピュアオーディオのマルチチャンネルのことですけど、高域、低域を分割して、それぞれ別々のアンプを通して、スピーカーの別々のユニットで鳴らします。スピーカーのネットワークを使わず、音に濁りがなくなってスケール感が出るのが素晴らしく、夢を感じます。何Hzで分けるかを自分で決めて、音量のレベルを調整したり。位相の調整は難しかったです。

ここ数年お休みの日にそういうのをやっていましたが、とっ散らかってしまったので一旦、もう一度スピーカーのネットワークを入れて元の形に戻してみました。そういう時にまたスピーカーユニットを外して、配線をつないで、とひとつひとつ。大変ですが、気持ちの良い音が出てくると快感なんです。

ーー「なにこれ、快感! 最高! 」って(笑)いう感じでやっているんですね。

野間 例えば、仮想アースに関しては、1年くらい前にある記事の取材後、メーカーさんから個人的にお借りして、自分の家のアナログシステムで試しました。ボリュームを上げていくと、どうしても発生するこの残留ノイズが仮想アースで消えるのだろうか? とあれやこれや(笑)。

編集者の立場で、取り上げるテーマに対して面白がって取り組まないと、雑誌は面白く出来上がらないと思うんです。面白い雑誌って、読む前から、つくっている人が面白がっているオーラを感じ取れる気がするんです。だから個人的にも、面白そうだと思ったことはまずやってみようと。それを誌面展開にも活かしていければいいなと思います。これからもどんどん、面白がってチャレンジしたいです。

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