好きなもの、いいものを伝えたい。“クロスメディア”な展開の事業局責任者が願うこととは

音元出版の“中の人”のストーリー集<Ongen Stories>
Vol.3:Yuki Hirano

音元出版の事業局のひとつである「PHILE WEB クロスメディア事業局」は、定期刊行誌、フリーマガジン、WEBメディア、アワードと、さまざまなメディア、さまざまな事業をマルチに展開しています。より的確に情報が届きやすい手段を追求したさまざまなチャレンジを行ってきて、これからも次々と新しいことにチャレンジしようとしています。日々仕事にまい進する事業局の統括責任者が、その原動力となる思いを聞かせてくれました。


平野勇樹

Yuki Hirano
PHILE WEB クロスメディア事業局 統括

株式会社音元出版 取締役 メディア事業本部 副本部長 PHILE WEB クロスメディア事業局 統括

(Profile)
2002年4月 株式会社音元出版に正社員として入社、ホームシアターファイル編集部に配属。2007年に自ら企画したフリーマガジン「プレミアムヘッドホンガイド」を創刊、2012年雑誌「 プレミアムヘッドホンガイドマガジン」を創刊、それぞれに編集長として従事する。2016年 SPディビジョン 執行役員に就任。VGPアワード実行委員会の責任者を務めるほか、ホームシアター関連のスマホアプリやWEBサイト、体験イベントなどを手がける。2019年7月 株式会社音元出版 取締役に就任。2022年 5月 取締役 PHILE WEBクロスメディア事業局 統括責任者に就任。現在に至る。


音元出版の総合力を最大限に活かしながら
3つの領域で発信力を高めていく

ーー 平野さんは「PHILE WEB クロスメディア事業局」の統括のお立場ですが、部署で展開されている事業についてあらためてご紹介ください。

平野 音元出版は1942年の創業から、オーディオビジュアルに関連する数多くの新聞や雑誌メディアを発行してきました。1999年から、いちはやくWEBメディアも手がけてきました。PHILE WEB クロスメディア事業局は、これら音元出版が展開する専門性の高いコンテンツを、時代のニーズやユーザーの属性にマッチさせて、さまざまな手段でアウトプットしていくこと、つまり音元出版の総合力、メディアパワーをフル活用して情報発信することが大きなミッションです。メンバーは20代〜40代で構成されています。

たとえば、 クロスメディア事業局の主力メディアのひとつに「フリーマガジン」があります。家電量販店や専門店などの店頭で無料配布することで、お買い物に来たお客様に直接リーチするという手段で情報発信を行っていますが、これは実は、簡単なことではありません。よい配布場所を確保できたのは、音元出版の先輩方が、販売店の方々を対象とする業界誌を手がけ、家電量販店や専門店との強固な信頼関係を築いてきたからこそです。そして、ユーザーに配布することを事前にしっかりと告知できるのはWEBメディアである「PHILE WEB」があるからこそです。

こういった総合力を生かして、記事をインターネットを通じて拡散したり、イベントに人を集めたりと、 複数のメディアを掛け合わせて活動を行っています。現在の事業領域は、大きく分けると「アワード」「ホームシアター」「ヘッドホン」の3本柱になります。

ーー 「VGPアワード」の展開は、影響力が年々高まっていますね。

平野 オーディオビジュアル商品を手にするきっかけになれていれば、とてもうれしいです。「VGPアワード」は1987年に「ビジュアルグランプリ」の名称でスタートし、35年という長い歴史をもっています。現在では年に2回、夏・冬の商戦期に開催していますが、メーカーや代理店の皆様の自薦でのエントリーを募り、直近でおよそ250ブランド、2500アイテムほどのご応募を国内外からいただいていて、オーディオビジュアル業界で国内最大級といえるアワードにまで成長しました。受賞結果は、雑誌、フリーマガジン、WEBメディアで発信しています。

クロスメディア事業局がVGPアワードを手がけるようになって以降、チーム一丸となって、さまざまな改革を行ってきました。オーディオビジュアル製品の進化にあわせて、評価軸に「画質」や「音質」のクオリティだけでなく、デザインや使い勝手など「暮らしを豊かにするパワー」という視点を加えて審査する「ライフスタイル分科会」の対象カテゴリーを充実させました。またVGPアワードの特設WEBサイトを充実させたことで、より認知度も上がりました。その結果、たとえばアジア圏からのアクセスが増えて、海外のブランドからもエントリーのご希望をいただくようになったことも大きな変化のひとつです。いつの間にかWikipediaに「VGP」が載っていてびっくりしたんですが、必死に取り組んできた結果、想像以上に注目していただけるアワードになったことに、自分たちも驚いています。

だからこそ、「このアワードは発売前の製品をどうやって選んでいるのか、製品を見ていないんじゃないか?」といったご意見やご批判をいただくことも多くなりました。もちろん実際には、そんなことはありません。10名の評論家の審査員と約30の販売店が投票・審査にご協力くださっていますが、エントリーくださったメーカーから審査員への事前の説明会・内覧会は50回以上実施されていて、コロナ禍でもこれをオンラインで丁寧に行ってきました。各々の審査員は、数日間試聴室に缶詰めになり、実際に製品に触れてテストをしています。彼らはテストしていないものには投票しません。審査の裏側では面白いコメントがたくさん飛び交っているので、今後はSNSなども活用しながら、審査の過程も積極的に情報発信していきたいと思っています。守秘義務などがあるので、全てを公開することはできないのですが、ユーザーの皆様により信頼していただき、楽しんでいただくことができるアワードに成長していくために、努力していきます。

ーー ホームシアターは、雑誌とWEBの両輪での発信を行っていますね。

平野 雑誌「季刊 ホームシアターファイルPLUS」は、日本で唯一の定期刊行誌です。前身の「ホームシアターファイル」を含めると、延べ100冊以上を発行していて、ホームシアターファンの方や業界関係者など、延べ2,500人以上の方々に、雑誌にご登場いただきました。販売店やホームシアターづくりのプロである「インストーラー」とのコネクションを生かして、建築から美しく作り込んだ、日本全国の「映画館のある家」の素敵な実例の紹介記事が人気コンテンツとなっています。

雑誌のメインターゲットは、家づくりのタイミングでホームシアターの導入を考える、30代~40代の団塊ジュニア世代のファミリー層です。新しい読者との接点を増やすために「ホームシアターCHANNEL」というWEB媒体を2年前に立ち上げました。これまで雑誌だけで行ってきた情報発信を、WEBサイトでも進めていこうと、“デジタルシフト”に注力しているところです。

過去に実施した色々なイベントでのリサーチの結果、ホームシアターを諦めてしまう3大ネガティブ要因がわかりました。「オカネがかかりそう」「狭いとできなそう」「音漏れが気になりそう」なんですが、実はどれも誤解で、そこもしっかりと理解していただけるようなコンテンツを丁寧に発信していきたいと思っています。

リビングに大画面があると家族同士のコミュニケーションが生まれたり、専用室や寝室など映画や音楽に集中できる環境があれば、自分のマインドをリセットする時間が作れたり、「ホームシアター」にはとても多くのメリットがあります。コロナ禍を通じて、家族と過ごす時間、家時間を充実させたいというニーズが高まっていますが、ホームシアターという文化は、そんな時代の空気ともマッチします。素敵な映画館のある家が世の中にひとつでも多く実現してほしい、それがこの事業の大きな夢であり、目標です。

ーー ヘッドホンの雑誌は、平野さんご自身が企画されて立ち上げてきたものですね。

平野 入社して5年目、15年ほど前にフリーマガジン「プレミアムヘッドホンガイド」を、そして10年ほど前に雑誌媒体「プレミアムヘッドホンガイドマガジン」を創刊しました。どちらも編集長としてゼロから立ち上げたものです。ヘッドホンのフリーマガジンを作りたい、店頭で展開したい、といったイメージがあって、先輩とご飯を食べながら雑談しているうちに明確になっていったんです。当初は、雑誌「ホームシアターファイル」の中の差し込み小冊子の体裁で形にして、それを足がかりに単独のフリーマガジンを作り、販売店さんのご協力を得ながら店頭に置かせていただいた、という流れです。

当時、大半のユーザーにとってイヤホンは消耗品で、それが壊れると安いイヤホンに買い替えるパターンが主流で、メーカーさんの宣伝活動も盛んではありませんでした。情報も非常に少なかったですし、ポテンシャルのわりにオーディオ業界の中での地位もかなり低く見られていました。逆に言えば、このカテゴリーは「世の中の常識をひっくり返せる可能性がある」と思いました。音楽が好きな若い世代のみなさんに、イヤホンやヘッドホンの面白さが伝われば、大きなインパクトになると考えたわけです。

すでに当時から若年層は書店離れが進んでいたので、情報の伝達手段として考え出したのが「フリーマガジン」でした。そして誕生した「プレミアムヘッドホンガイド」は、読者のおよそ半数が学生世代という、オーディオ業界にとって新しい顧客を獲得することができました。「プレミアムヘッドホンガイド」はメーカーのみなさまのご協賛と販売店のみなさんのご協力で、年々規模が大きくなり、最大で15万部を発行するまでに成長しました。

ヘッドホンを100年続く文化にしていきたい、文房具や時計、ワインなどと同じように「趣味のアイテム」として確立させたい、という想いで立ち上げたのが雑誌版「プレミアムヘッドホンガイドマガジン」です。プロカメラマンの方に撮っていただいた美しい写真、国内外のエンジニアの独占インタビュー、プロ用の測定機材を用いた実測を交えたレビューなど、フリーマガジンよりもマニアックな内容を展開しています。ポータブルオーディオの深い沼に足を踏み入れるきっかけになれれば、とてもうれしいです。

来年、2023年は雑誌「プレミアムヘッドホンガイドマガジン」が10周年を迎えます。その節目に、ポータブルオーディオの分野で音元出版として「これまでにない挑戦」を準備していますので、そちらもぜひご期待いただければと思っています。

音元出版のメディアパワーをフル活用して情報発信する「PHILE WEB クロスメディア事業局」。定期刊行誌、フリーマガジン、WEBメディア、アワードといったさまざまな事業を展開しています

任されることには自由と責任がある
それがモチベーションになったら楽しめる

ーー 平野さんはいろいろと新しいことを発想され、どんどん実現してきている印象です。ご自身のことも紹介していただけますか。

平野 学生時代から文章を書いたり推敲したりするのが好きで、自分の好きなものを誰かに伝えるためなら、すっかり時間を忘れてしまうところがありました。だから編集の仕事をやりたくて、音元出版に入社する以前にも、別の出版社でファッション誌の編集のお手伝いをしていました。

音楽はもともと学生の頃から好きで、自宅ではレコードを500枚くらい持っていて、今も集めています。それで、オーディオに係わる仕事という音元出版の求人を見て、楽しそうだと思って応募したんです。面接のあとすぐ連絡が来て、明日から来いと言われてすごくうれしかったですね。もう20年前のことです。

最初に配属されたのは、当時の「ホームシアターファイル」編集部でした。ある日、スピーカーの取材のために機材のセッティングを命じられたんですが、自分ではそれなりにオーディオに詳しいつもりでしたから、自信をもって機材をケーブルでつないでいったんですよ。当然、音も出ました。でも、それなのに評論家の先生からすごく怒られたんです(笑)。ケーブルの種類や長さ、向きが違う、コンセントを挿す場所が違う、とか。知らないことばかりでしたから、仕事が終わるとメモ帳を持って先輩に教えてもらっていました。

今考えてみると、オーディオの深い世界をわかったつもりでいたなんて、たいへんおこがましいことです(笑)。でも逆に言えば、自分と同じように、オーディオマニアでなくても、音楽や映画への愛情と、誰かに面白いと思ったことを伝えたいという情熱を持ち続けることができるなら、オーディオの機材についての予備知識は最初はなくても大丈夫、入社してから覚えていけばいいんです。これから音元出版を志望してくださる方にも、そう思ってもらえるといいですよね。

音元出版は、若い人であっても仕事を任せる文化があるんです。 僕も20代で「プレミアムヘッドホンガイド」を創刊させてもらいましたし、はやくから編集長を経験させてもらいました。もちろん任されるということは、自由と同時に責任も生まれるわけですけど、それが楽しくてモチベーションになる方にとっては、若いときから活躍、成長できる環境だと思います。

ーー お休みの時など、何をされているんですか。

平野 フットサル、サウナ、建築巡り、あとはもちろん映画を観たり、レコードやサブスクで音楽を聴いたりしています。

業界を広げる活動を
あの手この手でアピールしたい

ーー これからやってみたいことを教えていただけますか。

平野 ホームシアターやオーディオの裾野を広げるために、異業種コラボにはチャレンジしてみたいですね。たとえば食や旅、インテリアやファッションなどとオーディオをかけあわせて、新しい価値をお届けできたら楽しそうです。音元出版は音や映像に対するマニアックな専門知識をもっている数少ない出版社のひとつですから、そういうところを世の中にもっと面白がって貰えるといいなと思います。

ホームシアターやオーディオをこれから先の未来に繋いでいくには、新しいユーザーに参加していただくことが何よりも大切ですから、業界が広がるような活動には、目先の利益に囚われず、積極的に取り組んでいきたいです。

メディアのかたちにはこだわらず、さまざまな方法で、コロナ禍で再び見直されたホームシアターやオーディオの価値を、より魅力的な体験としてユーザーのみなさまにお届けするお手伝いができればうれしいです。

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